30年続いたデフレの背景

1 日本は妬まれ脅威を与える存在であった

 昭和の終わり頃、平成の初め頃日本のGDPは米国の6割近くあった。一人当たりでは米国をはるかに凌駕していた。新聞では日米の経済的な摩擦が大きく取り上げられ、21世紀は日本の世紀だという学者もあらわれた。ロシアは米国との軍拡競争に後れを取り破産し、共産主義体制が崩壊した。中国の一人当たりのGDPは日本の100分の1で経済的には弱小国であった。米国、西欧、日本の自由主義体制が優れていることが証明されたと言える状況であった。なかでも急速にGDPを大きくした日本の一人勝ちと見る識者も多かった。天安門事件もあって共産主義体制の劣勢は明らかであった。漫画やアニメの影響で日本にあこがれを抱く中国の若者が報じられた。共産主義体制へ不満が向かないように反日教育が始まったのは1990年代と言われる。抗日戦争勝利50周年に当たる1995年に愛国主義教育が重視されるようになったが日本に酷い目に合わされたから汚名をそそがなければならないと強調された。日本人にはなかなか想像できないことかもしれないが日本が中国に与えていた脅威が並々ならぬものであったことを示している。

2 中国を急速に発展させなければならない

 人口15億もいてGDPで人口1億の日本の数分の一と言うのは中国人にとって恥ずかしい数字であった。共産主義体制が優れているというのが建前の彼らには不都合なことであった。彼らは日本の高度成長を研究したはずである。日本のように経済的に技術的に発展したいと願ったことは確実であろう。経済成長とはものをつくることだ。道路を作り、鉄道を作り、会社をつくり、学校を作る。病院を作り、研究所を作る。それがGDPを大きくする。具体的には自動車をつくり自転車しかなかった各家庭に提供し、全国に新幹線を走らせることが中国をゆたかにすることだ。1958年に始まって3年続いた大躍進政策での失敗を考えて先進国に学ぶことの必要性から改革開放政策がとられた。外国企業の進出が歓迎された。民主化を求める天安門事件を武力行使して弾圧したことから悪化した西側との関係は天皇訪中を機に関係改善に進んだ。21世紀になると国際貿易機構WTOへの加入が認められ、中国のGDPは順調に大きくなっていった。日本の高度成長期の成長率は大きく変動したが中国のこの時期の成長率は殆ど一定であったことから投資主導型経済運営を行っていたとみられる。予算規模を計画的に増やしていけば毎年ある割合で成長する。

3 日本の発展を止めなければならない

 中国共産党にとって日本は一貫して仮想敵であった。憲法9条があり、軍事力が制限されていても高度成長して軍事力が大きくなるのは常に心配事の一つであった。1967年沖縄返還のころ佐藤内閣により非核3原則が閣議決定された。1976年三木内閣によって防衛費をGDPの1%にするという方針が閣議決定された。1978年訪日した鄧小平は松下幸之助を訪ね「中国の近代化を助けてもらいたい」と申し出た。新幹線に乗った鄧小平は「中国には自慢できるものが何もない」と発言していた。彼の発言からは日本のように「誰もが車を持ち、高速鉄道に乗れる」ようになることが目標であったことが推察される。
 そのころ中国人の発言に「日本と中国の発展の差は30年」というのを聞いたことがある。そのとき「30年後日本はもっと発展しているだろう」と思ったものだが実際には「30年間日本のGDPは500兆円台前半から全く成長していない」という普通にはあり得ないことが実現している。このことは「日本の発展を止めることや発展を遅くする」ことは最初から計画に入っていたのかもしれないと思わせるものがある。バブル崩壊後の日本はそれまでバブルになった経験がなかったから混乱した。リーマン衝撃後米国がやったような大量の通貨を刷って市場に流すということをやらなかった。日銀法第5条には国債の日銀引きうけは禁止されているからである。この条項はインフレを避けるための条項だ。これに対してデフレを防ぐための条項も必要であるが「デフレの場合は日銀券を増刷してもかまわない」と言う意味の条項になるだろう。デフレを防ぐための条項のない日銀法に従って日本経済をデフレに追い込んだ後、30年間もデフレを続けることになった。
 中国から日本にはいろんな要望(或いは命令)が来ていると言われる。首相は靖国神社に参拝するな。尖閣に日本人を上陸させるな。防衛費は1%以下にしろ。非核3原則をまもれ。専守防衛を守れ。等々。それにバブル崩壊後「基礎的財政収支の均衡をとるという政策を守れ」という命令が追加されたと私は考えている。これが日本のGDPを500兆円台前半に抑えたつまり30年間日本の発展を止めた張本人だ。なぜこういうことをするかと言うと30年前一人当たりのGDPで日本の100分の1だった中国が日本に追いつき追い越しやすくするためだというとまちがっているだろうか。

4 自らを第一としない者は滅びへの道を選ぶ

 日本国憲法には平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して自らの安全と生存を保持しようと決意したとある。また政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意したとある。日本人も日本政府も悪いことをするから自由にやらせてはいけない或いは監視しないといけないと言っているのだ。この憲法に基づいて非核3原則や防衛費GDPの1%枠と言うのが決められている。これは憲法の精神に合致していると左側の勢力は言うであろう。しかしこの二つの原則は日本国のためになるのであろうか。この二つの原則を中国、韓国それ以外の国も支持していると聞いた時にはたして「日本国のためになる」と言えるであろうか。「日本国のためではないのではないか」と言う疑惑がわいてくる。こういうことがないようにするためには日本国憲法は紛れもなく日本国のためになる原則で構成されなければならない。GHQに押し付けられた日本国憲法には望むべくもないところだ。その意味で一度も憲法改正をして来なかった日本の怠慢と言わざるを得ない。
 例えば小泉首相は派遣労働法を改正して非正規社員を大幅に増やした。これは労働者の賃金を下げる働きをしたといわれている。さらに2003年~2004年にかけて40兆円を使って円安誘導を行い、戦後最長の好景気と言われるものを演出したが円安のために国際比較をすると一人当たりのGDPは大幅に順位を下げている。対外依存度が高まったためリーマン衝撃の時はサブプライムローンの影響は軽微と言われながら急激な円高もあって主要国の中で経済の落ち込みは最も大きかった。東日本大震災の後は多くの原発が止まり、代替電源として火力発電に頼ったため大幅に石油の輸入が増え貿易黒字が減少した。小泉首相は引退後も脱原発のために活動しているが原発依存の復活から石油輸入の減少、貿易黒字の復活を懸念していると考えれば日本を弱体化するために一貫して働いているように見える。彼はかって「自民党をぶっこわす」と言ったことがあるが「日本を弱体化したい」という深層の本音がでたものであろう。日本国憲法は日本が軍隊を持つことを禁じている。このことは自らを第一とすることを禁じているのと同じだ。こういう憲法のもとで生きる人間は憲法に大きく影響を受ける。日本を弱体化させる積りはなくとも弱体化させることをやってしまう。
 あらゆる生き物は自分第一で生きている。組織体もそうだ。日本国もそうだ。第一原則を否定した憲法のもとで生きると国民そのものが歪んでくる。かって日本の社会党は非武装中立を標榜し、国民の支持も高かった。しかしウクライナを侵したロシアが非武装中立をウクライナに要求していることから明らかなように非武装中立の主張は自国のためではなく敵国のためなのだ。マスコミに引っ張りだこの橋下徹氏が「ウクライナは早く降伏すべきだ」と言う意味のことを言ったとして炎上しているが日本と中国が尖閣か何かで揉めたときに「日本は早く降伏すべきだ」と言う準備が既にできていることを示している。中国の要請を受けてこうなったのか自発的に中国側を忖度してこうなったか明らかでないが中国側が大喜びする事実であるのは間違いない。

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